Brand Historyブランドヒストリー

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フォト工房キィートスを
知っていますか?

ニコンと共に四半世紀。
それがフォト工房キィートスのキャッチフレーズだ。
現在ではメーカーの修理対応が完了している名機を匠の技で甦らせるニコン専門の技術集団である。

▶︎キィートスでは、各自の専門職能を活かしたジャンル別での分業制で作業をしている。前列左が名誉技術顧問の國井猛さん(ニコンS系)、右が名誉技術顧問の長谷川勝さん(ニッコールレンズ)、後列左から長谷川晶樹さん(ニコンF2)、本橋昭夫さん(接客・点検見積り)、技術顧問の菊地誠孝さん(ニコンF)、伊藤真吾さん(ニコンFE2、New FM2 、F3)

キィートスでは、各自の専門職能を活かしたジャンル別での分業制で作業をしている。前列左が名誉技術顧問の國井猛さん(ニコンS系)、右が名誉技術顧問の長谷川勝さん(ニッコールレンズ)、後列左から長谷川晶樹さん(ニコンF2)、本橋昭夫さん(接客・点検見積り)、技術顧問の菊地誠孝さん(ニコンF)、伊藤真吾さん(ニコンFE2、New FM2 、F3)

 フィンランド語で“ありがとう”を意味するキィートスという名のカメラ修理工房は、往年のニコンファンにとって特別な存在だ。ユーザーだけでなく中古カメラ店にも頼りにされており、「これはキィートスさんで直してもらった品物だから大丈夫」と太鼓判を押されるほどの信頼が寄せられている。キィートスは1998年の創業以来、メーカーでの修理対応が完了したニコンのフィルムカメラおよびニッコールレンズの修理・オーバーホールを専門に手掛け、高品位なサービスを提供してきた。

 ニコン愛好家の「このカメラをまだまだ使い続けたい」という切なる願いを叶える“駆け込み寺”として救いの手を差し伸べてくれるキィートス。創業メンバーは日本光学工業㈱=現ニコンでの長い社歴を持つ修理技能保持者であり、その技を直接伝授された少数精鋭のメンバーで構成されている。そもそもキィートスはフィルムカメラの持続可能性を維持すべく、ニコンからの働きかけで工房を立ち上げたという経緯を持つ。

キィートス創業者の國井猛さんが日本光学時代に参加した輸入商社主催のクリスマスパーティー(1968年NYにて撮影)。

▲キィートス創業者の國井猛さんが日本光学時代に参加した輸入商社主催のクリスマスパーティー(1968年NYにて撮影)。

 在籍する技術者たちはクラシックの名機と共に高齢となり、長年培ってきた技術を未来に引き継ぐことを目的として2025年4月1日をもってフォト工房キィートスのブランドはキタムラ・ホールディングスグループのカメラ修理専門会社であるユー・シー・エス(以下、U.C.Sとする)に移管された。このことによりキィートスの無形資産である卓越した技術はU.C.Sに在籍する志のある新世代の技術者へとマンツーマンのスタイルで継承が始まっている。この先の四半世紀へ向けて、より多くのユーザーに古き良き時代のニコン製品に関する修理サービスを提供していくための道筋が整ったのである。

U.C.S創業者の渡邉勝明さん(右から2番目)と國井猛さん(右端)は栗林写真工業の同僚だった(1961年撮影)。

▲U.C.S創業者の渡邉勝明さん(右から2番目)と國井猛さん(右端)は栗林写真工業の同僚だった(1961年撮影)。

カメラの歴史を変えた
ニコンFという革命

35mm判カメラの定番がレンジファインダーから一眼レフへと転換する時期に登場し、
比類なき堅牢性とシステム拡張性によりカメラ界を席巻した名機、それがニコンFだ。

◀︎ペンタプリズムの稜線は他社に見られない直線的なもの。袋文字のFを含め、意匠を提案したのは当時気鋭の若手デザイナーだった亀倉雄策である。

ペンタプリズムの稜線は他社に見られない直線的なもの。袋文字のFを含め、意匠を提案したのは当時気鋭の若手デザイナーだった亀倉雄策である。

 ニコンFは、日本光学工業㈱が持つ光学・精密技術を結集して作り出されたニコン初のレンズ交換式一眼レフだ。アイレベルで正像を見られるペンタプリズム、撮影後にブラックアウトしないクイックリターンミラー、開放絞りでピント合わせが可能な完全自動絞りの機能を盛り込むことでレンジファインダー機と同等の操作性を持つ。望遠レンズの重量にも耐える堅牢なバヨネット式ニコンFマウントで結合する各種交換レンズ群を備えることで、多様な撮影ニーズに対応するシステムカメラの中核として設計されていた。

アイレベルファインダーを装着したニコンF。ブラック仕上げはプロ機材の凄みがあり、アマチュアの憧れの的だった。

▲アイレベルファインダーを装着したニコンF。ブラック仕上げはプロ機材の凄みがあり、アマチュアの憧れの的だった。

 ニコンFは1959年に発売されるや国内外で大きな反響を呼び、プロフェッショナルの撮影現場における一眼レフの存在感を高めるゲームチェンジャーの役割を果たした。一眼レフのメリットとして実際にフィルムに写る像をファインダーで見ることができることを最大限に活かし、ファインダー視野率は完全無欠の100%を実現。シャッター幕には厚さ0.02㎜のチタン材を採用するなど、まさしく旗艦機としての威厳を放っていた。

 完璧主義に裏打ちされた精度と耐久性、システムの万能性こそニコンFの要諦であり、純然たる機械式の機構は正しく整備すれば半永久的に稼働する。ニコンFは後継機ニコンF2が発売されても市場からの要望があり、1973年まで15年間に渡り生産されたロングセラーでもある。

ニコンFの後継機としてニコンFの優れた資質を受け継ぎながら、使い勝手をさらに向上させたのがニコンF2だ。

▲ニコンFの後継機としてニコンFの優れた資質を受け継ぎながら、使い勝手をさらに向上させたのがニコンF2だ。

ニコンFを構成する部品の展開図。トップカバーなどの外殻を脱がすと現れる機構の中枢部は、ギアやカムなどの純粋な機械部品で構成されている。
▲ニコンFを構成する部品の展開図。トップカバーなどの外殻を脱がすと現れる機構の中枢部は、ギアやカムなどの純粋な機械部品で構成されている。